くにうみの先見

平成の農地解放と地域づくり

このようにして考えると、農ビジネスは新規参入による巨大な発展可能性をもつが、新規参入者が事業展開するときに最大の障害になるのが、自作農以外による農地の所有と使用を原則として禁止した農地法などの規制である。最も重要な生産手段である農地の所有も使用もできなければ、新規のビジネス展開はきわめて難しい。農業と農村のもつ歴史・文化・伝統・自然、という経済に還元できない大切なものを大事にしつつも、新しい農業の自立を進めるには、フランチャイズ・ビジネスをはじめとした法人が真筆に農業に取り組む限り、注意深くしかし着実に農地の保有と使用を認めなくてはいけない。
「平成の農地解放」である。ただし、税制などで法人のほうが個人よりも一方的に有利にならないように制度上の中立性を確保する必要がある。もちろん、農業は地域の中で調和して展開され、水や農地の利用について他の生産者との調整は必要である。法人による優越的地位の乱用は、規制しなくてはいけない。また、単なる土地保有や投機を排除することは言うまでもない。生かされていない農地を活用することが目的なのだ。
自作農が耕作地を拡大することによって農業生産を拡大する、という農地法の目的は現実には破綻している。多くの自作農は規模が零細で、兼業農家になることで自立した農業生産から事実上撤退し、全国で耕作地は減少している。そのうえ、米の減反によっていっそう農地の利用は低下してきた。さらに、農業従事者は高齢化し、いくら潜在的ビジネスチャンスがあっても産業として大きく育てていくのは無理である。
経営資源、資金力、人材をもった新規参入者が農地を所有あるいは使用すれば、農地の生産性は上がる。付加価値の高いものを生産しょうとするから、米だけ大量に作って価格を暴落させたりはしないだろう。そうなれば、農地の経済価値は上がり、いまのように誰も引き取り手がなくて貴重な農地が耕作放棄される事態も大きく減るだろう。単なる売却だけでなく、定期借地や契約栽培などさまざまなかたちでの農地提供が考えられ、農家の選択肢と経済的利益は増える。この分野でも農林系金融機関や地域密着型の金融機関などが、資金・情報の提供、優良な事業者の紹介などの業務を展開すれば、地域や個人と事業者の円滑な結びつきができやすいだろう。
そうなると農地の概念を再構築しなくてはいけない。農地がみだりに市街地に転用されれば、投機目的での土地取得が増え農業は荒廃する。農ビジネスの導入は安定的な生産農地としての使用とセットでなくてはいけない。これは自給率向上のためにも必要である。農業生産そのものよりも自然環境の保全のために必要な山間農地や森林についても長期にわたって確保しなくてはいけない。 他方、都市近郊では、これまで都市計画と農地計画の縦割りの弊害をついて農地の無秩序な転用が起きる一方、農地の転用の原則禁止と都市計画の不在から、計画的で優良な市街地は戦後なかなかできなかった。いま高級住宅地とされる田園調布や芦屋は戦前の都市近郊の開発である。
平成の農地解放は、ドイツなどのように田園地帯に美しいコンパクトシティと呼ばれるような集落や小都市を作るチャンスだが、そのためには、中央からの縦割りの計画ではなく市街地、農地、零などを含む一つの土地利用計画を地域で作り守っていく仕組みが不可欠だ。自治体の首長に強い権限を与えるとともに、広域の土地利用ガイドラインと、より具体的な地域別の土地利用計画について、幅広い住民の参加と情報開示が必要だ。農業生産効率の高い地域、山間部、都市近郊などの地域特性の違いによって土地利用計画のあり方も変わってくる。農業のみの地域もあれば、市街地の中に農地や原っぱを認めることもキチンとした地域の合意があれば可能だ。
これまでは、農地に関する意思決定は、主に農業委員会が行ってきた。自作農の利益を図ることがその原則であつたが、不明朗な政治的決定の温床になり、無秩序な乱開発を進めてきた面がある。今後の農地利用の決定には地域全体の土地利用計画についての透明性の高い合意と同時に、個々の農民の意思を尊重することを基本にしなくてはいけない。法整備と同時に、規制改革特区において農ビジネスの実現と平成の農地解放、統一された土地利用計画を先行的に実現し地域別の発展のパターンを示すことが重要だ。田園の中に東京よりも美しい町並みができるときに、景観や環境という公共財を壊しても平気という戦後の歪んだ私有権絶対思想から日本が脱却し、社会的公共資本であり、住民の財産に跳ね返ってくる風景と町並みの価値が確立されるだろう。

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