くにうみの先見

中国が世界最大の経済大国となるためには「太陽経済」のリーダーとなることが不可欠

「太陽経済」とは私が提唱する新しい世界経済のシステムであり、「人類が100億人になっても平和に共存共栄できる」世界を可能にする基礎条件だ。太陽光発電や再生可能エネルギーは、「太陽経済」の重要な一部だが、そのすべてではない。
天才的な指導者である鄧小平が1990年代初めに生み出した「米中経済同盟」を基盤として、中国がグローバリゼーションの最大の受益者となり、「21世紀中に世界最大の経済大国になる」、という考えの原型を私が持ったのは1993年のことだった。鄧小平の南巡講話や「黒い猫も白い猫もネズミを捕る猫はいい猫だ。」という発言が世界に報道された後だ。私は後にアメリカのゴールドマンサックス本社の共同経営者になったが、入社する直前の1993年に、当時の経営トップと中国を巡るやり取りを行った。「21世紀には、中国は世界最大の経済大国になる。」と説く私に、当時の経営トップは、「中国は22世紀の国だ。」と応じた。世界の事情に通じていた当時にトップにとっても、「中国経済が世界一になる。」というのは夢物語だった。この時のやり取りは、「勝つ力」という題で2004年に日本で出版した本の中に書いた。
しかし、そのゴールドマンサックスは、2001年11月にBRICsレポートして有名になるレポートを発表し、その中で、2041年に、中国経済はアメリカを抜いてGDPで世界最大になるとした。ただ、私にとってこのレポートの予測は甚だ根拠薄弱であった。現在、13億人の人口を抱える中国がアメリカ経済を超えるためには、資源、環境における制約を乗り越えなくては不可能と言える。さらに、中国が世界最大の経済大国になることは、今アメリカが担っている「世界経済の安全保障体制」を維持する責任と世界各国との信頼関係を築き上げることを意味する。こうした条件を乗り越えてこそ、中国は世界最大の経済大国になりうる。それは如何にして可能なのだろうか。
私が、主要な産油国ではない中国がアメリカを抜いて世界最大の経済大国になるために不可欠の条件は、20世紀型の「石油経済」から脱却して私の提唱する21世紀型の「太陽経済」のリーダーシップ国家になることだ、と明確化できたのは、2007年に出版された「米中経済同盟」と2009年の「太陽経済」の二つの著作を書くことを通じ、私自身が「太陽経済」を経済理論としてはっきり定式化してからであった。
私が「太陽経済」実現のために行動を開始したのは、「太陽経済」日本版の出版と同時だった。学界、行政、ビジネス、メディアなどから多くの賛同を得て、2009年2月に社団法人「太陽経済の会」が発足し、私は代表理事として「太陽経済」実現への活動を開始した。
そして、2011年3月11日午後2時46分、東日本地方は、千年に一度の規模の大地震と巨大津波に襲われ、2万人以上の犠牲者が出た。走行中の東北新幹線はすべて無事に緊急停止したが、巨大事故が起きた。福島原子力発電所が津波によって破壊され、炉心溶融(メルトダウン)が発生し、放射性物質が大気中に放出された。発電所周辺の汚染地域の住民が避難し、その多くが現在も戻れないでいる。「絶対安全」と言われた日本の原発でも巨大な災害が発生したのだ。
日本政府が閣議で再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)法の導入を決定したのは、偶然にも東日本大震災当日の午前中であった。私は、FIT法導入へのアドバイスを行ったが、戦後の日本経済の最大の危機を迎え、事業者としての活動を開始した。現在、私たちは、日本で最大の太陽光発電所の建設を開始するなど、「太陽経済」の理論と実践の双方を内外で行っている。
今では、「太陽経済」日本版の出版から7年が経過した。現在、私は、「太陽経済」の中国語版の出版の準備を進めている。すでに、2016年現在の中国は、「太陽経済」の一部である太陽光や風力などの発電事業分野で世界トップレベルの実績を持っている。また、太陽光発電装置の分野では中国のトリナ社が世界一であり、風力発電装置では中国のゴールドウィンド社が世界第二位だ。
さらには、売上高で世界の全企業の中で第7位である中国の国家電網は、世界の送電網を接続し、「太陽が生み出す電気エネルギー」を世界中で利用できるようにする「送電網ネットワークの相互接続」を世界で実現するために行動を開始している。
そして、何よりも、中国政府そのものが「太陽経済」の要素となるべき政策を着々と実行していることが重要である。確かに、現在の中国では、化石燃料などによる環境汚染や健康被害は耐え難いレベルにある。しかし、中国の政策の方向性は、「脱化石燃料」「環境」である。その点がゆるがない限り、中国は早晩、「北京秋天」といわれた美しい大気と「山紫水明」の自然を取り戻すだろう。それは、中国古来の文化の回復でもある。
だから、中国は「太陽経済」実現への最短距離にあり、実現したときには世界最大の経済大国となる、と言える。これからの中国の課題は、経済システム全体を「太陽経済」に転換することである。同時に、中国が、本書の第5章で詳細に述べる条件を満たして、「太陽経済」を世界に広げることが重要である。
中国が、「太陽経済」が本質的に持つ「平等」「持続可能」「無尽蔵」という特性を生かして、「石油経済」の宿命である、産地がごく一部地域で「地理的に不平等」、「持続不可能」、「枯渇」を根本原因とする世界経済の不安定を克服できれば、人類の人口が100億人を超えても平和に共存共栄できるための重要な必要条件を満たすことができる。その時に中国は、単に世界一の経済大国となるだけでなく、世界を真に主導する国家となりうる。

Article / 記事


トップに戻る